ミラノ風子牛肉のカツ(Ternera milanesa)

 私たち日本人には和風洋食として馴染み深いカツですが、欧米では一部の日本レストラン以外では出会うことがありません。それでもミラノ風子牛肉のカツという、細粒パン粉をつけて揚げた肉料理に出会うことがときどきあり、これが日本のビーフカツに一番似ています。これを食べ歩いてみますと、大まかに言って、ソースがなくレモンを絞ってかけるもの、トマト系ソースの上にカツを乗せたもの、カツの上にデミグラス系のソースをかけたものの三種類があることがわかり、食べるにつれ日本のカツとはまた違ってそれぞれに味わいがあるものです。スペイン語圏ではパン粉をつけて揚げたものは、a la milanesa(ア・ラ・ミラネサ)とか単にmilanesa、あるいはempanizado(エンパニサド、女性名詞につくとempanizada)と呼ばれ、稀にカキフライに似たものに出会うこともあります。欧米のカキは身が薄っぺらなものが一般的で、日本のカキフライのように噛むとき量感があるものとは違い身が薄くて小さいカリカリしたカキフライです。スペインでもカキとアサリは生で食べますが、生(crudo、クルド)というよりも生きた(vivo、ビボ)もので、レモンをかけると特にアサリは大げさに身を引き締めます。したがって、生ガキを食べるといっても、量感がある酢ガキのような日本のものとは少し様子が違います。体調にもよるのでしょうが、スペインで生ガキを食べるのはかなり危険です。生ガキを食べて肝炎にかかったという話はよく聞きました。ある日本の大手銀行マドリッド支店の日本人駐在員5名全員がいっしょに生ガキ食べて全員肝炎にかかり業務に支障がでたということがありました。私の場合、スペインではカキは諦め、アサリはalmejas al vapor con limón(アルメハス・アル・バポール・コン・リモン)という蒸したアサリをレモンで食べる簡単な料理があるのですが、これがすこぶる旨くプライベートで行く海産物レストランではいつも注文しました。
 さて、話をミラノ風子牛肉のカツに戻しますと、いろいろある中でもヘルシンキ駅のレストランで食べたデミグラス系のソースをかけたものが忘れられず、記憶を頼りにその作り方を研究してできたのが以下のreceta(レセタ、レシピ)です。
 《Receta レシピ》
Wagyu a la milanesa:
ミラノ風和牛のカツ

〈Salsa(ソース)〉
 フライパンにピュアオイルを入れて中火で細かく切ったにんにくとたまねぎをよく炒め、牛スジとともに、予め適当に切ったにんじんとセロリと水、すべて圧力鍋に入れ強火で熱し、圧力が最大になったら弱火にして30分煮て火を切り自然に冷ます。フライパンにバターをいれ融けたら弱火にして少量の小麦粉を入れ焦がさないように注意しながらミルクコーヒー色になるまでへらでよくかき混ぜる。圧力鍋が冷めたら裏ごしして別の鍋に受け中火で量が半分くらいまで煮つめてから小麦粉バターのフライパンに入れ中弱火でよく馴染ませ赤ワインを加えとろみがつくまで煮込み、最後に少し生クリームを加え必要なら塩で味を調整する。
〈Patatas(じゃがいも)〉
 メイクイーンは皮を剥き細かく千切りし、フライパンに多めに入れたピュアオイルでよく揚げ、揚がったら油を切るため料理紙の上に乗せ塩をふる。千切りにして揚げるとハッシュドポテトのようにくっつく食感がいい。
〈Carne(肉)〉
 日本では子牛肉は手に入りにくいので和牛で赤身のモモを基準とする(オージービーフなどのステーキ肉でもいいが、できるだけ脂身と筋を外すか、筋には包丁でたくさん細かく切り目を入れる)。肉たたきで叩くか両面ラップしてすりこ木かガラス瓶で叩き面積を2倍くらいまで展ばす。細粒のパン粉がない場合、普通パン粉を大きめのすり鉢に入れすりこ木で細かくする。ビニール袋に入れ手で叩いて押しつぶしてもいい。ボールに卵をいれよくかき混ぜ生クリームをいれてよく馴染ませる。
 薄く展ばした肉に塩コショウして初めに両面に軽くパン粉をつけてから卵をつけ再度パン粉をしっかりつける。そして、フライパンを中火にして1cm位いれたピュアオイルで片面ずつ焦がさないよう前後左右にずらせながら黄金色になるまで焼く。焼けたら料理紙の上において油をとり、バターを融かせたフライパンで両面にバターをつけ皿に盛り、salsaをかけスイートバジルをちぎってその上にふり、ポテトを添える。出来あがったカツを2cm幅に切ると箸でも食べられる。