ワイン vinos

《リオハワイン》

 スペインは国中どこでもワインを生産していますが、スペインの代表的な高級ワインの産地は何といってもRioja(リオハ)です。リオハワインはボルドーワインに似て色が深くボディがきいて口にまろやか、私の場合、ワインの基準はどうしてもリオハに置くことになります。
 私の最大の取引先になったAzpeitia(アスペイティア)の丸棒メーカーのオーナー社長はリオハ最大級のbodega(ボデガ、ワイナリー)を買収しボデガのオーナーにもなりました。Logroño(ログローニョ)にある彼のボデガに招待されたことがありますが、ボデガというより最新鋭のワイン工場で、巨大なステンレス製の破砕・圧搾機や発酵タンク、オートメーションのボトリング設備に驚きました。丸棒メーカーの厳しい経営者には投資対象として大量生産の最新鋭ワイン工場がお目にかなったのでしょう。しかし、それよりも立派過ぎる宿泊施設とダイニングルームの方がもっと驚きでした。聞いてみると、毎年の発表会に雑誌記者たちを招待するための施設ということでした。バスク人の知り合いが一部出資したリオハの超高級ボデガに案内されたときのイメージは、木製が中心でこじんまりして手作りを思わせるものでした。
 Riojaオリジンを名乗れるのはRiojaに加え、Álava(バスク地方)の一部、Navaraの一部およびBurgos(Castilla y León地方)の一部で構成される地域です。そしてこの地域は異なった一定の品質を持つ3つの地区、Rioja alavesa(リオハ・アラベサ)、Rioja alta(リオハ・アルタ)、Rioja baja(リオハ・バハ)に細分されます。その地域・地区で採れる葡萄で、承認された品種を一定比率以上使用することによりRiojaオリジンあるいはRioja alavesa等のオリジンと称することができます。Rioja ワインの年間生産量は約2.5百万HL(エクトリトロス=100リットル)、そのうち tinto (ティント、赤)が85%、blanco(ブランコ、白)とrosado(ロサド、ロゼ)が15%です。赤ワインが圧倒的ですね。やはり、スペイン人macho(マチョ、男子)は赤しか飲まないんです。因みに、ロゼは赤ワイン用の葡萄と白ワイン用の葡萄を混ぜて作られます。承認された葡萄品種の使用比率は、赤ワイン用でTempranillo(テンプラニジョ)種と呼ばれるあまり聞きなれない品種が85%、白ワイン用では、これもあまり聞かないViura(ビウラ)種という品種が95%占めています。Tempranillo種はリオハワイン特有のボディのあるワインに適しています。
 リオハワインはオーク材のbarrica(バリカ、ワイン樽)とbotella(ボテジャ、ボトル)で寝かせる期間により次の3つの階級が与えられます。リオハではワイン樽はボルドーと同じ225リットル樽が使われます。ワイン樽に使用されるオーク材の品種はワイン醸造に重要で、年代もののフレンチオークが最高、ルーマニア産、アメリカ産などがあります。
Crianza(クリアンサ):
・ 赤ワインの場合、収穫年の10月1日から数えて2年以上樽とボトルで寝かせたもの。樽の期間は1年以上。
・ 白ワインとロゼの場合は、赤ワインと同様合計2年以上だが、樽の期間は6ヶ月以上。     
Reserva(レセルバ):
・ 赤ワインの場合、36ヶ月以上樽とボトルで寝かせたもの。樽の期間は12ヶ月以上。
・ 白ワインとロゼの場合、24ヶ月以上樽とボトルで寝かせたもの。樽の期間は6ヶ月以上。
Gran Reserva(グラン・レセルバ):
・ 赤ワインの場合、樽で24ヶ月以上、続けてボトルで36ヶ月以上寝かせたもの。
・ 白ワインとロゼの場合、48ヶ月以上樽とボトルで寝かせたもの。樽の期間は6ヶ月以上。


 リオハワインの過去10年間の収穫年別評価は次の通りです。最近はいい出来が続いたようですが、ヴィンテージは2001年、2004年、2005年です。
     2000年 Buena(良い)
     2001年 Excelente(優良)
     2002年 Buena(良い)
     2003年 Buena(良い)
     2004年 Excelente(優良)
     2005年 Excelente(優良)
     2006年 Muy Buena(非常に良い)
     2007年 Muy Buena(非常に良い)
     2008年 Muy Buena(非常に良い)
     2009年 Muy Buena(非常に良い)

 一方、スペインの葡萄畑の作付面積は世界一ですがワイン生産量(2008年)はイタリア、フランスに次ぎ世界第3位です。乾燥した土地のせいで単位面積当たりの収穫量が少ないようです。第4位から第7位はアメリカ、アルゼンチン、オーストラリア、チリと意外に欧州外です。因みに、一人当たりのワイン消費量(2008年)はバチカン市国が最大で66.7リットル、スペインは意外と第15位で32.9リットルとバチカン市国の半分以下です。ワイン大国、フランスは順当に53.2リットルで堂々第3位、小さな地域や国を除くと実質第1位ですが。
  2007/2008年の統計によると、スペイン国内の地域別ワイン生産ではCastilla-la Mancha(カスティージャ・ラ・マンチャ)が圧倒的に第1位で17.2百万HL(エクトリトロス=100リットル)でスペイン全体34.3HLの50%に相当します。以下大きく離れて、Cataluña3.1百万HL、Extremadura2.9百万HL、Comunidad valenciana2.4百万HL、Rioja(リオハ)2.1百万HL、Castilla y León1.7百万HL、Aragón1.2百万HL、Andalucía1.2百万HLです。


《ヴィニュ・ヴェルドゥ》

 リスボンで私の大好きなところの一つにFeira popular(フェイラ・ポプラール)という遊園地がありました。ここは一年のうち夏場中心の半年間しか開いていないのですが、市内でも広大な敷地内にsardinha(サルディーニャ、いわし)の塩焼きと二つに開いて炭火で焼いたfrango(フランゴ、チキン)がメインなオープン・エアーのレストランがいくつもあり、どちらも味付けは塩だけと思いますが、材料が新鮮で実に旨く、真夏の夜にはそれを目当てに何度も出かけていきました。炭火焼きの煙が立ちこめる中、サルディーニャ一人前4〜5匹、そして、その場で揚げたポテトチップが山盛り添えられたフランゴ1羽をひとりで食べるのですが、この時にいつも決まって飲むのが冷やしたvinho verde(ヴィニュ・ヴェルドゥ、あおい=若い白ワイン/直訳は緑色のワイン)で、若いワインのせいかアルコール度が低く感じられ爽やかな酸味が料理によく合いのどごしも最高でぐいぐい飲めました。
 その後何年も経ってマドリッド駐在となりましたが、夏休みに家族を連れて車でポルトガルを旅行した折にもリスボンではFeira Popularにでかけました。ひとりではなく今度は奥さんと2人の子供が加わった自分の家族でsardinhaとfrangoを食べながら、このvinho verdeを飲んだときは、いろいろな想いが込み上げてくるほどに懐かしく本当に最高のひと時を過ごした思いでした。そして、ここは遊園地。食事のあとは子供たちといろいろな乗り物に乗り夜が更けるのを忘れました。
ただ、この頃はスペインからでも物価が遥かに安いと思えたポルトガルでしたから、リスボンだけでもと気張って・無理して最高級のリッツホテルしかもスイートに宿泊したのですが、「リッツは庶民的なFeira popularやいわしの塩焼きとは若干違和感あるなぁ...」、と思っていたら、案の定、ホテルを出発する朝、ボーイを呼んで中古で買ったシトロエンCXをホテルの正面玄関まで移動、荷物を積み込んでもらいチップをあげたまではよかったのですが、全員乗車して颯爽といざ出発の時どうしてもエンジンがかからず、結局、修理を頼み、出発できたのはその6時間後でした。
 いまでも私はスペイン人machos(男子)に倣って白ワインは決して飲まないのですが、日本でもごく稀にお目にかかることができるこのvinho verdeだけは例外です。


《りんご酒シドラ》

 英国のパブでは冷えてないビールが出されますが、スペインでは日本と同様ビールはよく冷やして飲みます。スペインのaperitivos(食前酒)としては、偶然の発見から特殊なカビの作用で上品な味に変身したワインの一種jerez(ヘレス、シェリー酒)が有名ですが、実際にはビールもよく飲まれます。
 ヘレスは南スペインのアンダルシア地方Jerez de la Frontera(ヘレズ・デ・ラ・フロンテラ)が産地ですが、りんごが採れる北スペインはcidra(シドラ)というりんご酒の産地です。シドラはアルコール度が低いのでビール同様よく冷やして一気に飲みます。日本ではノンアルコールの三ツ矢サイダーで有名になったサイダーが同じ語源です。
 Azpeitia(アスペイティア)という北スペイン・バスク地方の田舎町に重要な取引先でスペインでは当時有数の丸棒(鉄筋)メーカーがありました。北アフリカリビア国の公団向けに大きな輸出契約が決まり丁度第一船約8千トンを船積みしている時、このメーカーのオーナー社長がシドラの酒蔵レストランに招待してくれました。私は『超』をつけたいほど有能な部下のスペイン人スタッフと二人で出張してアスペイティアの工場と積出港Pasajes(パサへス、州都San Sebastianサン・セバスティアンの工業港)で貨物の状態と船積み状況などをチェックしたのち山の中のようなところにある酒蔵レストランに向かいました。もちろんメーカーの人たちと一緒に。因みに、この耳慣れないアスペイティアという田舎町は、室町時代末期の戦国時代1549年日本へ渡来し初めてキリスト教を布教したFrancisco de Xavier(フランシスコ・ザビエル)とは同志で、宗教改革に対抗して共にイエズス会を設立し初代総長を務めたIgnacio de Loyola(イグナチウス・ロヨラ/写真左)の出身地です。
 夏でもひんやりとしたレストランの地下にはシドラの酒蔵があり巨大な樽がいくつも並んでいました。全員が木製の台のような長い大きなテーブルに着くと、オーナー社長の一声で立ち上がりました。そして、テーブルの全員が片手にシドラグラスを持ち、一列になって"mojón"(モホン)と掛け声をあげながらシドラを飲みに酒蔵を目指し階段を下りていくのが慣わしということでした。「モホン」とは「(シドラで)全身びしょ濡れになる(まで飲みましょう)」といったような意味の掛け声です。シドラの注ぎ方は独特で、片手でボトルを高く持ち上げ、低く下げたもう一つの手にシドラグラスを持ち、できるだけ高度差をつけて注ぎます。酒蔵の場合も、蔵番が樽の小さな栓を抜くとシドラが放物線を描く細い水流となって飛び出し、それを客が手に持ったシドラグラスに受けるというもので、シドラが飛び散り実際に濡れないで済ますのは殆ど不可能でした。

 テーブルの横にはオープンキッチン型の大きなバーベキュー台があり、その上で一切れ2キロくらいある大きな塊のサーロインがいくつも焼かれていました。もう一つのテーブルには若い男女のグループがいましたが、かぼそく二十歳そこそこの若い女性がひとりでこの2キロの牛肉を平らげるのには驚きました。一般に、「バスクの女はよく食べる」とは言われてはいますが。私も大いに飲み大いに食べましたが精々半分の1キロ程度が限界でした。
 たくさん食べるためにたくさん飲むのか、たくさん食べるからたくさん飲むのか、取引先といっても仲間内のような関係、楽しく会話も弾んで実に愉快なひと時を過ごしましたが、酒蔵レストランでの長い夕食会が終わり、私たち二人はサン・セバスティアンのホテルへタクシーで行きました。ホテル着いた時は日付が変わっているというのに、大飲みした勢いから明け方までやっていたホテル内のカジノへ入り、そこでもしつこく飲み続けた後やっと部屋に入るとバタンキューで深い眠りにつきました。


《白ワインは女・子供が飲むもの》

 フランス風には、あるいは日本ではと言った方がいいか、よく、「魚料理には白ワイン、肉料理には赤ワイン」、と言われています。しかし、スペインでは、仕事の関係上たくさんのスペイン企業の人たちやamigosと数え切れないほどに招待したりされたりで食事をともにしましたが、machos(男子)が白ワインを飲むのを見たことがありません。いつも決まって必ず赤ワインでした。夏の暑い時期に、最初に冷やしたロゼを少し飲むことは稀にありましたが、これも食事とともに赤ワインを飲む前にaperitivo(食欲増進の食前酒)として飲む冷たいビールなどの代替品のような扱いでした。スペインで夏場によく飲まれる、若い安価な赤ワインにオレンジ、りんご、レモンなどの果物と砂糖を入れ冷やして飲むSangría(「血」に由来する意味を持つソフトな飲み物)も同様でした。白が一般的なスパークリングワインのcava(フランスのシャンパンに相当)も冷やして食前に少し飲むものです。バブル期のスペインで不動産関係の仕事を担当しているとポテンシャルな投資家と見られて食事つきの国際的な会合や視察会に招待されることがよくありました。そんな時は、ドイツなど白ワインしか採れない北部ヨーロッパからの出席者が多かったせいか、あまりコストを掛けていないようなフルコースで赤ワインの前に白ワインが出されることがありました。しかし、味がわかるスペイン人machosは必ず白はパスしていました。
 即ち、男子たるものの辞書には「食事に白ワイン」はないのです。誰が言ったか、「白ワインは女・子供が飲むもの」。私も同じことを唱えてスペイン駐在から帰国後は周りの人たち全員に赤ワインを飲むことを強要してきました。先日、酒類があまり飲めなかった会社関係の後輩が彼の後輩たちに同じことを言ってる場面に出くわした時は驚きましたが。