Pamplona（パンプロナ）の牛追い祭り - スペイン料理の世界　−　友達を自宅に招きスペイン風フルコース料理で楽しくもてなせるようになる　『家庭派料理教室』

　バスク民族のナバラ王国の首都であったPamplona（パンプロナ）には、encierro（エンシエロ、牛追い）で有名なパンプロナの守護聖人San Fermín（サン・フェルミン）に因んだ祭りがあります。聖フェルミン祭は何世紀も昔からあったものですがヘミングウェイの「日はまた昇る」で世界的に有名になりました。日本では一時サントリーのCMでも取り上げられました。７月７日は聖フェルミンの日で、毎年、前日の７月６日正午、市役所前の広場でロケット花火が打ち上げられ祭りは始まります。前夜祭があり、聖フェルミン祭の正装である白装束に赤のスカーフ姿で大勢の若者は飲み明かし広場や通りで野宿しますが、７月７日朝８時にスタートする牛追いに参加します。サント･ドミンゴの囲い場から闘牛場までの８２５メートルを先導役の２頭の去勢牛や６頭の闘牛といっしょに駆け抜けるのです。ほんの数分間のことです。交差点の両側はもちろん柵で閉鎖され、安全な外側にはたくさんの観光客が柵に張り付いて通りの中を覗いています。毎朝キッチリ同じ時間に始まり最終日の７月１４日まで続きます。時間にルーズといわれるスペインですが闘牛の始まりだけは時間厳守です。
　聖フェルミンについて、紀元後３世紀、パンプロナでローマ人の元老院議員の息子に生まれたフェルミンは司教となってフランス中を説教して歩きますが、そのとき奇跡を起こしてつぎつぎと病人を治し、現在世界遺産のノートルダム大聖堂で有名なAmiens（アミアン）につくまでにその数は千人を越え、当時、その地方を管轄していたローマの総督はフェルミンの影響力を恐れ斬首刑に処したといわれています。白装束を着て首に赤いスカーフを巻くのはフェルミンの受難を思い出すためとの言い伝えがあります。
　マドリッドに赴任して数年経った頃、丁度、聖フェルミン祭の期間に鉄鋼関係の重要な客人が日本からスペインに来るというので、会社として気を利かせパンプロナ郊外のPríncipe de Viana（プリンシペ・デ・ビアーナ）という昔の城を改造した有名な国営観光ホテルParador（パラドール）を予約していたのです。この時期は非常に混むので半年以上も前の予約で、宿泊費も前払いでした。しかし、この重要客人のスケジュールがずれ込みパラドールが利用できなくなりました。そして、その利用権が希望者に提供されることになったので私はすぐに手を挙げ、聖フェルミン祭を家族で見に行くことになりました。私にとって聖フェルミン祭は二度目でした。前回は学生のときで野宿でしたが、このときは家族といっしょで立派な国営観光ホテルに宿泊です。もちろん二度とも柵の中には入っていません。あれは相当に危険です。死者もでています。パンプロナの聖フェルミン祭、セビージャの春祭り（Feria de abril、フェリア・デ・アブリール、４月の祭り）、そしてバレンシアの火祭り（las Fallas、ラス・ファジャス）がスペインの三大祭りといわれていますが、私は１０年近くスペインにいてなぜか火祭りだけはとうとう行かずじまいでした。
　牛追い祭りは子供には危険だといわれ、子供たちは、私の部下のバスク人スタッフがサン・セバスティアン郊外のFuenterrabía（フエンテラビア）に買った別荘で預かってもらうことになりました。別荘のすぐ近くが、川を挟んで対岸のフランスが見渡せるビーチでした。そのとき、彼の奥さんと二人の息子はすでに夏休みでその別荘にいたのです。何故、私の部下が別荘を買えたかといいますと、私がマドリッドへ赴任した当時、不況ではあったのですが、それよりもバスクの過激なテロ集団ETA（エタ、バスク祖国と自由）の活動が活発でバスクの都市でも爆弾騒ぎが頻発して資産家が逃げ出す動きが広がり不動産価格が暴落していたのです。彼は、恐らく正常な状態の市価の５分の１以下で買ったのですが、実は、マドリッドにもその影響がおよび、都心一等地のプールとガーデンがついた素晴らしい豪華マンションが、少し無理をすれば私にも手が出るくらいの価格水準まで安くなっていて、後になってから大いに後悔しました。そのときは仕事が不安定で何時日本へ返されるかわからないとの想いと不動産知識がなくとても実行できる状況ではなかったのですが、後に不動産を担当するようになり、高額な家賃が支払える状態であったことも考え合わせて、本当に最高のチャンスを逃したと思いました。ここでも先を読む姿勢の欠如が現れています。