ポルトガル南部海岸アルガルヴェへ禁煙旅行

　１９８６年１月スペインは念願のEC加盟を果たしましたが、スペイン鉄鋼メーカーの輸出競争力は政府による輸出助成金に依るところが大きく、ECに加盟すると輸出助成金は少なくとも段階的には廃止される見通しとなり、私達がそれまで大きく展開してきた丸棒などのスペイン鉄鋼製品の輸出ビジネスが大幅に縮小する可能性がでてきました。一方、１９８５年９月、G５の所謂「プラザ合意」でそれまでの強いドル政策が変更されドルはその他通貨に対し急速に下落が進行する状況で、ドル建て貿易商品である鉄鋼製品の取扱高は数量が同じでもペセタや円で見ると大きく減少する状況でした。そうした中、新規事業として別荘販売など不動産事業を手がけていくことになったわけですが、難関に立ち向かわなければならない私自身としては、危機感から悠長にタバコを吸ってなどいられないとの想いが日々強まり、それまでにも禁煙は何度かトライして失敗していましたが、このときは禁煙旅行にでることにしました。私にとってタバコを吸う時間は思考停止の時間で、考えを集中しなければならないときに百害あって一理なしとの認識でした。

　スペインでは木曜日や火曜日に祭日が来ると、puente（プエンテ、橋）といって土日を合わせ続けて４日間休日にする風習が企業にもかなり浸透していて、プエンテに入った金曜日や月曜日は会社が休みでなくても取引先や多くの担当者が休んでいてあまり仕事にならない半休日のようなものでした。私もプエンテを利用して１日だけ休暇を取り３泊４日で、ポルトガルの南海岸Algarve（アルガルヴェ）のVale de lobo（ヴァレ・ドゥ・ロボ、狼の谷）にあるdona Filipa（ドナ・フィリーパ）という５つ星ホテルへ禁煙旅行を決行しました。このホテルはAlgarveで最高級のホテルでしたが、ポルトガルはスペインから見ても物価が安かったので割安感があり、禁煙できれば安いものと、思い切って豪華ホテルに決めたのでした。
　私は毎日２、３箱吸うヘビースモーカーでしたが、手持ちと在庫のタバコおよびライターをすべて廃棄し出かける準備をしたところ、台所側のベランダにツバメが１羽舞い込んできて少し弱っている様子でした。うちの奥さんはスズメやツバメの看護が得意で、このときも一家の常備薬にしている熊笹のエキスでできたサンクロンという健康食品を薄めてスポイトでツバメに飲ませ、紙の箱でにわか作りした鳥かごに入れて連れて行くことになりました。朝マドリッドを出発してひたすらに車を走らせ、夕方にはホテルに着きました。ホテルの周りにもツバメがたくさん飛んでいたので一瞬安心しましたが、よく見ると想定外の発見というか、マドリッドのツバメは日本のツバメと同じように白い腹だったのにアルガルヴェのツバメは黒っぽい腹で明らかに種類が違っていました。しかし、翌日には元気になったので、ツバメは渡り鳥だからマドリッドでもひとっ飛びで帰ってくれることを祈りながら大空に逃がしてあげました。
　日常から離れ何も考えず家族とゆったり過ごすリゾートでの時間はすぐに経つもので、タバコを吸いたいと思うことなく３泊が過ぎ、早朝アルガルヴェを後にしてマドリッドに引き返しましたが、この禁煙旅行は大成功でそれ以来タバコを吸っていません。私から見ると非常に器用に、吸うタバコの本数を減らしたり、吸ったり吸わなかったりができる人がいますが、私は禁煙して１本吸うとそれで万事休すで喫煙が復活します。ですから、１本を絶対に吸わないことにしています。苦い経験があります。会社に入社して体力をつけたいと思い、ヨット部でなくボート部に入部しましたが、大学のレスリング部や山岳部出身の筋肉男たちといっしょにボートを漕ぐのは私にとってこの上なく大変なことでした。平日も艇庫に泊り込んで出勤する前に早朝練習するなど練習がきつくて自然とタバコを吸わなくなりました。大学のボート部経験者グループが１軍艇で、私たちは２軍艇でしたが、社内レガッタで素人の参加者達を指導、社内の４支店対抗で札幌まで遠征するなど一応１期を勤め上げシーズンオフに入ると退部しました。そんなとき、飲みに行った先輩に勧められ、断りきれずに１本だけ吸ったことからまたヘビースモーカーに逆戻りしてしまったのです。いまだにタバコを吸う夢を見て、「あっ、しまった！」、と思うことがあります。

【参　考】　欧州統合の歩み
　現在の欧州連合（EU - European Union）へ至るまでの欧州統合の簡単な経緯は以下のとおりです。尚、EUの表記は、スペイン、ポルトガル、フランス、イタリアなど形容詞が名詞の後に来る言語国ではUEです。欧州経済共同体(EEC)はCEE、欧州共同体（EC）はCEとなります。
１９５７年３月１５日　ローマ条約調印
１９５８年１月　１日　欧州経済共同体(EEC)発足
１９６５年４月　８日　ブリュッセル条約調印
１９６７年７月　１日　欧州共同体（EC）発足
１９９２年２月　７日　マーストリヒト条約（欧州連合条約）調印
１９９３年１１月１日　欧州連合（EU）発足
　EEC→EC→EUの流れで統合の中身が強化されていきました。EUの枠組みの中で１９９８年５月１日に欧州中央銀行が発足し１９９９年１月１日単一通貨のユーロが導入されました。
　この間のスペインの動きは、１９６２年にEEC加盟申請を行いましたがフランコ独裁体制ということで門前払いされ、１９７４年のフランコ没後、１９７７年に民主的な新憲法が制定され、EC加盟申請が受理されました。しかし、農業問題で加盟交渉が難航、スペインのEC加盟が実現したのは１０年後の１９８６年１月１日です（ポルトガルも同時加盟）。

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