トラブル発生!エクアドルへ緊急出張。

 スペインから鉄鋼製品・半製品を途上国へ輸出する取引では大小の問題やトラブルの発生は日常茶飯事のことでその解決に奔走する毎日でしたが、これが売買契約締結より遥かに重要な仕事でした。問題やトラブルの内容は、決済手段であった欧米一流銀行が保証するL/C(信用状)の開設遅延に派生するもの、L/Cが開設されても文面のタイピングエラーと船積書類の不備によるもの、本船の到着遅延・積出港の混雑・船積み遅延に関わるもの、本船船長とのトラブル、製品・半製品の品質クレームなどが中心でした。マドリッド駐在10年間でスペイン製鉄鋼製品・半製品の取り扱いが150万トンに達し、一度の船積み数量が、特別な対応をしたバルセロナ積みの日本向け半製品22,000トンを除き、通常1,000トンから多くて10,000トンで数多の回数の船積があったにも拘わらず、幸い問題やトラブルは最後には何とか解決・解消することができたのですが、一度だけ大きな損失を被る引っ掛かりがありました。
 それは、サウジアラビア向け丸棒約6,000トンの輸出で、本船が貨物を積んで船積港を出港したあとに発生しました。不定期船の用船契約では貸し手がオーナーで借り手がチャーターラーですが、中間に何人もの期間オーナーや船腹の部分オーナーが介在し誰が元のオーナーなのが分からないのが通常で、このケースではオーナーが途中のキプロス島の港に貨物ごと本船を放置、計画倒産をして逃げてしまったのです。逃げたオーナーはサウジアラビア国内にいることはわかっていても事実上法的には追求できない状況でした。貿易理論では船積港で貨物がクレーンで吊り上げられ本船の欄干を越えた瞬間、貨物に対する所有権とリスクは売主から買主に移転することになっています。しかし、通常の条件であるC&F条件、即ち、商品代金に船の手配と船運賃が含まれる条件で輸出した場合、海上運送中のトラブルについて買主側は心情的に納得できないところがあり、また、イスラム法によりサウジアラビアにおける外国商社支店の位置づけが明確でない状況もあって、新しく現れた本船オーナーの要求に応じFREIGHT(船運賃)を二重払いして貨物をサウジアラビアの目的港まで送り届けることになりました。
 私たちのスペインメーカーとの強固な関係のおかげで、一時パナマ運河を越えスペイン語圏の国、南米エクアドル向けの大口輸出までも可能になりました。エクアドルの国営住宅公社向けに丸棒2万トンの契約ができましたが、これが初めて経験する様々な問題とトラブルが発生するケースとなりました。ガリシア地方のel Ferrol 港で最初の1万トンを積み出港して数日後、本船が大西洋で嵐に遭遇、船のハッチ内で荷崩れを起こす海難事故が発生したのです。これ自体初めて経験する海上保険の対象となるケースでした。本船は安全航行不能となり地中海に入る手前の大西洋に面したスペインHuelva港へ引き返し、積荷の丸棒を一旦全部陸揚げし積みなおす作業となり、私はその作業状況を見るため急いでHuelva港へ飛びました。この積みなおし費用は保険で補填できる性質のものですが、問題は積みなおし作業により、いくら丁寧に扱うように要求しても、製品の丸棒が折れ曲がったりバンドル(結束)がほどけばらばらになるものがでる状態は避けられず、目的港到着時の積荷の状態は買主の目には酷いものとなることが予想されました。
 一方、この契約の決済条件は通常のL/C(信用状)ではなく、エクアドル政府に対する世界銀行の特別融資を利用するもので、融資実行のための最終手続きがジワジワ遅れ、結局、手続き完了前の船積みを余儀なくされる事態となっていたのです。そんな中、海難事故が発生し貨物の積みなおしが行われたのでした。貨物の酷い状態からしても目的港到着前に融資手続き完了と商品代金の入金を終わらせたかったのですが、エクアドルの支店による住宅公社との緊密な交渉にもかかわらず手続き進展の予定が次々と期待を裏切られ本船のエクアドル到着がまじかに迫りました。このままでは大変なことになりかねないと、ロンドン支店より私にエクアドルへの出張要請がでて急遽エクアドルの首都Quito(キト)へ飛ぶことになりました。本来、世界銀行融資関連の対応はロンドン支店の担当でしたが、スペイン語ができる私が行き、貨物の状態が悪く到着が大幅に遅れた原因は自然現象による海難事故によるもので我々側に責任がないことをしっかり説明して了解してもらい、わざわざスペインから飛んできたことで住宅公社に1日も早く融資手続きを完了させるプレッシャーをかけることを求められたのでした。
 唯一の直行便があったスペイン国営航空IBERIAに一番早いキト行きの予約を入れたところ、ファーストクラス以外満席だったのをいい口実に、ちゃかりと行きだけは初めてファーストクラスに乗っちゃいました。ファーストクラス料金で乗ったのはこれが最初で最後だったですが。キトは海抜2,850メートル、高山病になりそうなところで、住宅公社の事務所へ毎日何度も通いましたがエレベータがなく空気が薄いのに階段の往復を何度も繰り返し倒れそうになりました。電話が極端に通じにくく、特に、貨物を荷揚げする港があるエクアドル最大の都市グアヤキルと連絡を取るにも、電話をつなぐために自動で何度もダイヤルを繰り返す特別の機械でトライするのですが1時間に一度つながるかどうかの状態でした。したがって、キト市内でも電話は当てにできず実際に何度も行ってみるしかなかったのです。アポなしで行くので担当者がいなければ探すか待つか、あるいは出直すことになるわけです。こんな状態ですから実務がはかどらないのは当たり前、しかし、そうは言っておられないので、つながりにくいワシントンの世界銀行本部へ電話してもらうとかとにかく最優先でやってもらうよう毎日毎日何度も足を運ぶことでした。幸い、こちら側が説明する事情はよく理解してもらえ、住宅公社側に何の悪意もなく担当者は非常に誠実で、融資手続きには優先的に取り組んでもらっていることがわかり、また、融資自体に問題があるわけでなく単に手続き上の遅れであることも確認できました。約一週間滞在し、ここまで手続きが進めばもう大丈夫だろうとの感触を得て帰国しました。
 キトに着いた最初の土曜日には、支店の日本人駐在員の家族とスペインからの鉄鋼線材の購入先であった会社のユダヤ人経営者の家族が加わり皆さん四輪駆動車でアンデスの雪山がまじかに見えるところまで登ってバーベキューをする予定になっていて私もいっしょに連れて行ってもらいました。アンデスの海抜4,000メートルを越える川辺まで西部劇にでてくるような風景を見ながら行進し、大自然の中でのバーベキューを経験できたのです。一週間滞在してこれといったエクアドル料理の思い出はありませんが、このバーベキューは最高でした。因みに、エクアドル(Ecuador)とはスペイン語で赤道を意味し、まさに、赤道直下で雪を見たのでした。

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