マルベージャの別荘開発用地取得

 日本人向けに仲介販売したMarbella(マルベージャ)の別荘がある同じゴルフ場開発区域内に約250戸のマンション型別荘が建てられる34,000㎡(約1万坪)の開発用地があり、それを所有するアラブ人グループからその土地を買わないかとの話がありました。これは単なる別荘の仲介販売でなく不動産開発事業そのものでなかなか社内の承認取り付けは容易ではなく、このゴルフ場・別荘開発の事業主で、先に日本人向けに販売した別荘の売主でもあったスペインの有力銀行系不動産会社と交渉しその会社との共同事業とすることで稟議許可が取れる見通しとなりました。こちら側は土地を取得してそれを共同事業に現物出資し、共同事業者側は建物を建設してそれを現物出資するというものでした。

 開発用地を所有するアラブ人グループとは何度もコンタクトを取り交渉を重ねましたが、鉄鋼取引での経験からアラブ人相手では特に慎重になる必要があるとの認識で接していました。しかも海千山千といわれたマルベージャのアラブ系不動産マフィアのような相手です。彼らがマルベージャに所有していた豪華別荘でのランチに招待されたことがありました。20人くらい座れる長いテーブルで7、8人の相手に私一人で乗り込みあまり気楽にランチを楽しむ気分にはなれなかったのですが、メニューはある程度覚悟していたアラブ料理ではなくスペイン風のインターナショナルな料理だったので少しは安堵しました。
 土地の売買条件を細部に詰めていく段階で、売買価格では一定の合意ができたもののどうしても折り合いがつかない問題が出てきました。彼らは、節税目的からタックスへブンに対象となる開発用地だけを所有する特別目的会社(SPC)を設立していて、そのSPC株式の売買に固執したのです。会社の売買では、会社が隠れた債務を持っていた場合、その債務まで引き継ぐので理論的には大きなリスクが残ります。私たちは土地そのものの売買を主張しました。土地売買だと彼らに余分な税金の負担が発生し合意した価格では全く話にならない状況でした。その他条件はすべて詰まったのですがこの点だけが障害となり最終後合意に至らなかったのです。
 それから2、3週間経ち、合意は困難とほとんど諦めていましたが、ニューヨークの株式市場が一日で22.6%も暴落したブラックマンデーが起きたのです。これは世界大恐慌の引き金となった1929年のブラックサーズデーの下げ幅を上回るものでした。日本はそのときバブルの真っ只中で株式市場もすぐに平静を取り戻しましたが、欧米では市場の先行きに対する不安が大きく尾をひいていました。アラブ人グループから土地での売買を受け入れるとの連絡があったのはそんな時でした。そしてとうとう開発用地を取得することができたのです。
 私はその頃マドリッド駐在が5年を過ぎ、東京本店への異動先の話や後任の話もでていて人事的に流動的だったのですが、土地を買ったことでマドリッドに残ることになり、結局、後任者は増員として受け入れ鉄鋼関係を引き渡し、私は不動産関係に専念することで決着しました。

 土地取得後、即座に別荘開発・販売のための数々の準備に取りかかりましたが、その中でも開発認可用に必要な基本設計の作成は最初に重要な事柄で、これは共同事業者側の担当事項でした。ところが、いくら催促しても基本設計の中身がああでもないこうでもないと一向に固まらず開発認可取得のための作業が進展しないのでした。土地を買った私たちは金利負担など土地保有にかかるコストが発生していましたが、共同時業者側はタイミングを見ているのか、彼らに対し不信感を抱かざるを得ない状況となりました。こんなことでは共同事業はできません。そんなとき、共同事業者の方から土地を買ってもいいとの話があり、結果として、私たちは別荘開発事業に入り込むことなく取得から丁度1年で土地を売却したのでした。1年の保有で、バブル期です、売値は買値の150%、10%という高い社内金利に不動産取得税、固定資産税、弁護士費用などすべての経費を差し引いてもネットで30%以上の利益とはなりましたが。
 不動産事業に慣れていない私たちの固くて時間がかかる対応振りに、このスペインの不動産会社は私たちとの共同事業は無理と判断したのか、あるいは不動産市況はまだまだ大きく上昇するとみて自分たちだけで自由に企画設計し利益を独り占めしようと考えたのか、それとも何らかの事情で当初から一旦私たちに土地を買い持たせ、いずれ買い上げて自分たちだけで別荘開発をする積りであったのか、何でこんな結果になったのかわからず仕舞いでした。この土地はもともと彼らがゴルフ場・別荘複合開発の一環として造成し、アラブ人グループに売却したものでした。そして、この土地が売りに出ているとの情報はこの不動産会社の社長から私にもたらされたものでした。どうも彼らの手のひらの上で踊らされていただけなのか知れません。結果的には、その1年後1989年12月に日本経済のバブルが崩壊したので売却したのが正解だったのですが。因みに、日本の不動産市場、特に別荘関係はバブル崩壊後殆ど一貫して下げ続けたのですが、欧米では一旦下落したものの2008年9月のリーマンショックの1年半くらい前まで上げ続けました。














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