Bife á casa(ビフ・ア・カーザ) − リスボンの懐かしの味

 私がbife á casa(ビフ・ア・カーザ)に初めて出会ったのは、ポルトガル到着後の約1ヶ月間クヴィリャンを基点に各地の編み機販売店回りで過ごしたあと、いよいよリスボンでの暮らしがスタートしてひとりでぶらりとレストラン探しを始めた頃でした。
 最初に出合った店は、やや薄めの牛ステーキ肉に塩・コショウしてフライパンで焼き目をつけたあとバターと牛乳を加え更に少し熱したような感じで、それが大きな平皿に移され大盛りのフライドポテトが添えられたシンプルな料理でしたが、これが実に旨いんです。フライドポテトやパンもこのバターソースに浸すと格別の美味となったのでした。
別の店でもメニューにこのbife á casaがあったので同じものを想像して注文したところ、今度は小さめの深皿に肉汁がたっぷり染み出たようなand/orカフェが入っているような濃い色のどろっとしたソースの中に両面よく焼けた厚めの牛ヒレステーキが浸かっている感じで、フライドポテトは別皿にやはり大量についてきました。「店によりそれぞれ違ったその店独特のmolho(ソース)の」ということを"á casa"(その店の...、スペイン語の"a la casa"に相当)が意味していることがわかりました。
 私は一時bife á casaにすっかりはまってしまい、á casaのmolhoの違いを求め土日を中心にリスボン中のレストランを食べ回りました。もちろん店構えなど外観で一定クラス以上のレストランでしたが、それぞれ味が微妙に違うけれど何れの店も間違いなく美味しいのでした。
 私の事務所兼住居があった通りの石畳の歩道を5分ほど下っていくと小さなビール工場がありました。それにくっついた小粋なビアレストランには生のcerveja preta(スルヴェージャ・プレタ、黒ビール)があったので、私はここがとても気に入りよく通ったものです。大学時代にビールが大好きになった私は友達とビアガーデンに行くと、十分なお金なんてまずなかったので、おつまみは枝豆一皿だけで大ジョッキ3杯というパターンでしたが、このビール工場のレストランでもたいてい黒生大ジョッキ3杯でした。ただし、ここではお金に断然余裕があったので、他のテーブルを軽く見回して旨そうに見えたcamarão(カマロン)という海老の塩茹でを一人前注文したところ、大きな皿に山のように積まれて出てきました。1キロは下らない量です。頭を取って殻をむいてもネット1ポンドはあったと思います。塩茹でだけなので料理とはあまり呼べないものですが、外見通りこれが実に旨かったのです。しかも当時はまったく気にならないほどに安価。そしてこの量が時間が掛かってもちゃんと食べられるのでした。もちろん、そのあとは、caldo verde(カルドゥ・ヴェルドゥ、ジャガイモと野菜のスープ)とbife á casaがお決まりのコースとして。
 当時私は若く気が弱くてとてもシェフを呼びmolhoの作り方を聞き出すようなことはできなかったので濃い色のmolhoの具体的な作り方はわからず、また、最初の出会いの味の影響は強く受けるもので、私の『スペイン風料理』のレパートリーには下記のようなうすい色のbife á casa portuguesa(ビフ・ア・カーザ・ポルトゥゲサ、牛肉のポルトガル風クリームソース焼き)が入ることになりました。しかし、これ、結構好評です。

《Receta レシピ》
Bife á casa portuguesa:
ポルトガル風牛ステーキフレンチフライポテト添え:
 スーパーのパックの上に大きく折りたたんで置かれた薄切り和牛にそのまま塩(少なめ)・コショウ(多め)し、薄くピュアオイルを敷きやや強火で熱したフライパンに和牛上面を下に軽く焦げ目がつく程度に焼いて裏返し多めのバターをいれ十分に融け熱くなったら多めに生クリームを入れ更に中火で1〜2分熱する。でき上がったら大きめの平皿に移し、クレソンと、別途平行してピュアオイルで揚げた(できるだけ熱々の)フライドポテトを添える。ポテトは揚げたらすぐに塩をふる。牛肉200グラムに対し、バター80グラム、生クリーム大匙3杯を基準に、好みに応じて加減。フライドポテトやパンをこのバター&生クリームソースにつけて食べると美味しい。
☆薄切り和牛でなくステーキカットの牛肉(サーロインでもヒレでも、和牛でもアメリカ牛でも、好みに応じて)の場合は、両面に塩・コショウし両面に軽く焦げ目がつく程度に焼くことと、中まで火が通るように生クリームを入れたあと中弱火で長めに熱することに注意。肉から血がにじみ出てきたら裏返す。2cm幅程度にカットすると食べやすく箸でもいただける。